「カメラマンから観た◯◯」シリーズ

カメラマンから観た映画『リリーのすべて』の感想・評価 シリーズPART3


カメラマンから観た映画『リリーのすべて』の感想・評価 シリーズPART3

 

奥深い色彩と呼吸を感じさせる映像。

スクリーンショット 2016-03-20 13.49.05

 予告編を観ていたときから美しいと思っていた。その美しさはより純度の高いものとなった。

 この映画は世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベの実話を描いたもの。舞台はデンマーク。風景画家アイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)が肖像画家の妻ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)に女性モデルの代役を頼まれたところから物語が動き始める。アイナーの中で「リリー」という名の女性の存在を意識した瞬間だった。

 心と身体が一致しない。ましてや今から80年以上前、まだトランスジェンダーという言葉や概念が存在すらしてなかった時代である。その葛藤は、自分のような凡人には到底想像することすらできない。ただアイナーがリリーと初めて出会ったときの「ときめき」のようなものは、奥深い色彩と呼吸を感じさせる映像から、僕の手持ちの感受性と共鳴させることができた。

 

とてつもなく大きな「愛」を描いた人間讃歌的な映画。深い深い絆で結ばれた新しいラブストーリー。

 

 正直、少々自分勝手すぎるアイナーの行動は目に余る。リリーとしてと行動したと言ってもだ。それでもこの作品が美しく見えるのは、ゲルダの存在が大きいし、エディ・レッドメインとアリシア・ヴィキャンデルの表現力の素晴らしさだろう。

 そう「リリーのすべて」は一見すると、トランスジェンダー、セクシャリティといった言葉でくくられてしまいそうだが、そうではなく、もっともっと人間の深淵な部分、アイナーの自分が本当の自分に出会うための葛藤、そしてゲルダの苦悩に裏打ちされたとてつもなく大きな「愛」を描いた人間讃歌的な映画だ。

 「実話に基づく」と呼ばれる作品に対し、実際に本人を調べて作品を語る人がいるが(そういう僕も調べてしまったが)、トム・フーパー監督というフィルターを通して、新たに生まれ変わった作品として純粋に味わってほしい。性別や肉体は関係なく、夫婦や親友といった言葉ではくくれない、深い深い絆で結ばれた新しいラブストーリーであったような気がする。

 個人的には終止、涙ぐんでいたのですが、ドイツに手術に向かうアイナーを見送るシーンのゲルダの演技には涙を流さずにはいられず、ラストシーンのアイナーの故郷の画、スカーフのシーンは、象徴的すぎたものの映像がきれいで、これまた涙でした。

 

アイナーの故郷の画とデンマークの家でのシーンは光がきれいすぎる。カメラマンとして観ていてうらやましさしかなかった。

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 つらつらと感想を書いたが、この映画の魅力はストーリーをさることながら、その映像美だと思う。イギリスというかヨーロッパの映画の特徴の一つのような気がしているのだが、少しくすんだようなコントラストと色彩は奥深く、僕が写真の色味をいじるときには必ず参考にしている。ものすごーくざっくり言いすぎるとinstagramの色調補正機能の「SLUMBER」に似ているかもしれない。特にアイナーの故郷の画とデンマークの家でのシーンは光がきれいすぎる。カメラマンとして観ていてうらやましさしかなかった。

 

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アイナーの故郷の、風景の映像。印象に残ったのはその「描写力」

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 カメラワークの部分では前半でも触れたが、アイナーが初めてリリーの存在を意識したモデルの代役をしたときが秀逸だった。マクロレンズのような画角は出会いのときめきを、シビアでありながら柔らかい呼吸を感じさせるフォーカス送りは役者の興奮を見事に描いていた。

 特に印象に残っているのは冒頭のアイナーの故郷の、風景の映像。映画を見た人なら、おいおい当たり前だろとお思いかもしれないが、僕が印象に残った理由は、その映像の役割にではなく、描写力だ。
写真を少しやっている人ならわかると思うのですが、普通に風景を撮ると、空は真っ白に飛んでしまう。それを避けるために空に露出を合わせると、今度は地面の方が真っ黒につぶれてしまう。これは同じ一枚の画の中に、極端に明るさが違うものが存在すると見られる現象であり、その最たる例が空を入れた風景だ。写真だと三脚を置いて同じ画角で、明るい画(空)、中間の明るさの画、暗い画(地面)の三枚くらいとって後で合成なんてちょちょいのちょいですが、動画だとそうも行きません。そもそも動画には、180度シャッタールールみたいなものがあって、シャッタースピードとフレーム数(一秒間を何枚の画で構成するか)との関連で、割と遅めのシャッタースピードで撮らないと行けないので、写真と比べて、カメラ側の設定の自由度が極端に少なくなる。これはスチールの感覚で慣れている自分にとって、いつも苦労する部分ですし、「リリーのすべて」に限らず、そういう風景の映像と観るといつも感心してしまう。

 

 

画質の向上に深く関与しているのは、画素数ではなく、収差のないレンズ

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 ただ最近は、Sonyα7sⅡのように割と安価でダイナミックレンジ(最も明るいハイライト部分と最も暗いシャドウ部の階調の範囲)が広いものも増えてきたし、あとはそれに収差の少ないレンズを手に入れて、念のためNDフィルターでも買って、ちょうどいい感じで雲が広がって太陽が主張しすぎない日に撮れば、「リリーのすべて」のような風景映像が撮れるのかな、、、、?と思う。
 ちなみに画素数が高ければ高いほど、高画質だと誤解している人が多いですが、画質の向上に深く関与しているのは、画素数ではなく、収差のないレンズです。受け皿が大きくなっても受け取るためのツールがしっかりしてないと意味ないですから。だからシネマ用のレンズはあんなに高いのかもしれませんね。ということで今狙っている機材は、Otus1.4/55です。すんごい高いんですが、とにかく収差が少ないんです。

 

 


PROFILE

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NAME:木下 昂一 
通称chip(チップ)
 
LIVEやWEB媒体のスチールを中心に、イベントやPVの動画撮影などで活動、活躍中。
 
2016年には『APAアワード2016』で入選を果たす。
 

 


「ENJOY CINEMA」で新コーナーがスタートしました!
題して「カメラマンから観た映画◯◯!!」ということで、エンジョイシネマに所縁のあるカメラマン、通称「チップ」に上映中の最新映画から過去の名作まで、あらゆるジャンルの作品を「カメラマン目線」で自由に語ってもらうコーナーとなっています!

写真や動画の撮影に興味がある方は勿論、それらに触れたことがない方も、このシリーズを通して、また一味違った角度から作品を観ることで、より一層その作品の理解や楽しさが膨らむと思っています!
また、このシリーズを通してカメラマンだけではなく、一つの作品が完成するまでに、映像には映らない「影の立役者」「縁の下の力持ち」の存在を知ってもらうきっかけになればと思い企画をスタートさせました!肩の力を抜いてこのコーナーを今後も楽しんで頂ければ幸いです。編集長
 
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